私が真空管アンプを作り始めた40数年前、プリアンプのイコライザー回路を設計するときに、不可解な現実を知りました。その当時、非常に高価で有名なマッキントッシュC-22とマランツ#7を調べていた時のことです。カートリッジの出力は大きい時には100mVを超えると言われています。しかし、どんなに計算してもこの二つのプリアンプのイコライザー回路は歪むように計算の値が出てきます。その頃の私はまだ未熟でした。その二つのイコライザーアンプはNFBがあるので歪まないのです。当時、この二つのアンプは音が良い代表的なものでした。音が良い理由はイコライザーアンプ部の許容入力の大きさです。他のアンプが100〜300mVほどのとき、マッキントッシュC-22は390mVとマランツ#7は370mVでした。
*NFBとは?(完全な説明は長くなりますので、ここでのNFBを簡単に説明します)
回路に逆の信号をフィードバックする事で、歪みやノイズを打ち消したりする回路の事です。歪みやノイズが無くなり、周波数特性が大幅に伸び、データ上ではとても優秀なアンプに見せる事が出来るので、一般では好んで使用されていますが、強くかけると明らかに音質が劣化します。本物のアンプを設計するには、NFBに頼らない高い技術と高価な部品が必要なのです。
そこで、私は考えました。「NFBが無くても歪まないイコライザーアンプを作る。」
歪みの無いアンプにNFBをかける事は問題ないと思いますが、もともと歪みのあるアンプにNFBを強くかけても良い音は出てこないと考えました。ただ、常識にとらわれて考えると、どうしても許容入力を増やす事に限界があります。試行錯誤の末に行き着いた答えは、イコライザー回路をパワーアンプのような回路に変更し、プリアンプでは使うことのない真空管を選ぶ事で、不可能を可能にする事です。そうして完成したプリアンプは、100 mVを超えても歪まないことを確認しました。その後に、必要な分だけのNFBをかけました。そして、許容入力が2000 mVもあるイコライザーアンプができたのです。現在、Wo-1のイコライザーアンプの許容入力は少し調整して1800mVで使用しています。
Wo-1は、そこから更に改良しています。良いアンプを作るために良い部品を使用するのは当然の事ですが、更に良くするためには無駄な部品を省く事が重要です。アンプの設計において、音楽信号の通る部分に、コンデンサーや抵抗は少ない方が音に良いとされています。ある程度の数のコンデンサーは良いとしても抵抗は省くべきです。その中で、最も影響の大きいものがボリューム抵抗です。ボリューム抵抗によって約80%のエネルギーが失われます。また、インピーダンスを大きく上昇させます。このボリューム抵抗に良質なものを使ったとしても全く解決しません。
1997年9月、私はこのボリューム抵抗を無くすことに挑戦しました。そして、ダイヤルを使って定数を変化させることでアンプの増幅度を変えることを思いつき、1999年にWo-1が完成しました。アンプは更に改良され現在のWo-1は2014年以降の新設計です。このアンプは増幅が0倍から約45倍に変化します。フロントパネルのメーターはこの部分の真空管の正確な動作を管理するためにつけています。Wo-1の回路は、信号の通る道に抵抗が一切ありません。
一般のアンプ Wo-1のアンプ |
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これはボリューム回路の簡単なイメージ図です。Wo-1は抵抗による分圧を利用していません。 |
Wo-1にはもう一つ特徴があります。通常の高級真空管プリアンプの出力では、一般的な電圧増幅管(小電力)のカソードフォロア回路を使用します。それは見かけ上の低インピーダンス(100%のNFBによる少ないエネルギー)で出力されますが、Wo-1 2014年以降の新型では出力インピーダンスを下げるために出力管(大電力)を使用します。それは周波数特性を維持しながらプレートフォロア回路の高いエネルギーで音楽信号を出力します。これは何を意味するかと言うと、一般のプリアンプのほとんどは低インピーダンスに見せかける事で、質の良いプリアンプを装っているのです。Wo-1は誤魔化しのない本物の低インピーダンスです。
Wo-1を作るためには通常のプリアンプでは考えられない技術と物量が必要です。音質は透明感、スピード感、量感、力感、空間を強く感じ、生演奏の再現を思わせますが、私自身が製作したアンプですので、ここでは感想を控えさせて頂きます。しかし、設計の本質を理解して頂ければ、自ずとこのプリアンプが常識を超えた最高の音質を持っている事がご理解頂けると思います。
<補足>
Wo-1の回路写真の中に、黒い筒状の高級コンデンサー「ブラックキャット」が写っていますが、ヨーロッパ規格のRoHSに対応しておりません。ヨーロッパ方面への輸出の際にCEマークを付ける場合は、このコンデンサーのみ現代のコンデンサーへ変更されます。他の部品は全てRoHSに適合しています。
日本で販売する場合は、PSEマークのみでCEマークを付ける必要がありませんので、音質の良い高価なブラックキャットを使用しております。
※製品の仕様は改良のため予告なく変更することがあります。御了承下さい。